■JRR-2と中性子散乱研究■


材料研究炉部   舩橋 達

 我が国の中性子散乱研究は今JRR-3Mで逞しく成長しているが、多くの研究炉利用と同じように、JRR-2で培われた賜物である。 最初の中性子散乱実験はUFe2の磁気構造解析で、昭和35年の低出力運転とともに開始され、37年には国際会議に報告されている。 これは液体窒素温度、0.7Tの磁場での測定であり、その頃の炉の稼働率や測定技術を考えると驚異的な早さで、当時の研究者の意気込みが感じられる。 次のステップは、非弾性散乱による動構造研究への飛躍であった。 非弾性散乱が微弱なことから実現をあやぶむ意見もあったが、40年代には格子振動やスピン波の励起の測定に成功し、JRR-2の威力を見せつけることになった。

我が国初の空気浮上による角度駆動方式を用いた中性子分光器(HT-2DMNS)

 40年代末にはオンライン制御が進み、50年代には空気浮上の三軸分光器(写真)を建設するなど、装置面で大躍進を遂げた。 炉の稼働率も高まり、研究の内容も相転移や層状物質の格子振動など多様に進展した。 62年春に高温超伝導発見のニュースが伝わると、ほとんど全ての装置で高温超伝導体の測定が始められた。 おり悪しく燃料低濃縮化のため5月から炉の停止が予定されていて、その直前にいくつかのデータを必死の思いでとったのが懐かしい思い出である(図)。

原研2号炉で初めて測定した高品質の高温超伝導体YBa2Cu307の粉末回析パターンとその結晶構造

 JRR-2を利用した中性子散乱を知る人も急激に減りつつあるが、一個の中性子も無駄にすまいとしたJRR-2の古い時代のことを思い出すことも無駄ではあるまい。