■ウラニウム超伝導体■


原研先端基礎研究センター 量子凝縮相研究グループ   目時 直人

 「ウラン」といえば核燃料を連想されることが多いが、固体物理学の世界ではウラニウム金属間化合物は、磁性と超伝導を研究する上で特別な地位を占めている。 それはウランが5f電子をもち、セリウム、ネオジウム、そしてサマリウム系など4f電子が磁性を担う希土類化合物と同様、実に不思議で興味深い性質を示すからである。 とりわけウラン超伝導体は多くの研究者の興味を引いている。
 ウラン超伝導体のもっとも大きな特徴は、超伝導と磁気秩序が共存していることである。磁気秩序と超伝導はあい反する性質を持ち、通常は共存しない。 ところがウラン超伝導体においてはウランの持つ5f電子が超伝導に顔を出し、両者を結び付けてしまうのである。 我々の研究グループでは、JRR-3Mに設置された原研の所有する三軸型分光器と超低温冷凍機を組み合わせ(表紙写真参照)、ウラン超伝導体の磁性と超伝導の研究を行っている。 試料は原研先端基礎研究センターウラン超伝導化合物研究グループ及び東北大学理学部小松原研究室から高品質の大型単結晶を提供していただいた。
 ウラン超伝導体のひとつであるUPt3において、0.02µB/Uという非常に小さな磁気モーメントを伴った 反強磁性秩序の存在を確認し、超伝導転移点以下で磁気モーメントが10%ほど減少することを観察した。 同じ現象を磁気秩序がより安定なUPd2Al3や、 スピン密度波状態が実現するUNi2Al3においても発見した。 この2種類の化合物はウラン超伝導体としては比較的大きな磁気モーメントを持ち、より磁気秩序が安定と考えられる。そのことを反映して、 超伝導状態における磁気モーメントの変化はUPd2Al3(0.85µB/U)では1%、 UNi2Al3(0.2µB/U)では3%であった。 このように非常に小さな磁気モーメントを捕らえたり、磁気ピークの非常に微少な変化を世界に先駆けて発見することができたことは、 JRR-3M中性子線源として優秀であることを示すものである。

UPd2Al3の反強磁性ブラッグ点Q=(000.5)
における磁気励起スペクトルの温度変化

 UPd2Al3の非弾性散乱実験によって、超伝導転移温度Tc=1.9K以下で0.4meV付近にピークが観察され、 磁気励起スペクトルにギャップが生じることを発見した(図参照)。超伝導は2個の電子がペアーをつくって結晶中を自由に動き回る現象である。 このとき電子対形成に伴って電子状態にギャップを生じる。本研究によって観察された磁気励起のギャップは、この超伝導ギャップであると結論された。 観察された磁気励起ギャップはTc以下でゼロから連続的に増加し0.4Kで0.4meVに達する。この値は2kBTCに相当し BCS理論(弱結合の場合)によって期待される3.5kBTCよりもかなり小さい。 さらにこのギャップは非BCS超伝導で期待される異方性を示すことがわかった。また最近この物質のスピン波励起にも超伝導転移に伴って明らかな変化が観察されている。 これら一連の磁気励起スペクトルの異常は、この物質の超伝導が磁性と強い相関を持ち、しかも磁気的な起源を持つ有力な証拠と考えられる。