(株)京都フィッショントラック   岩野 英樹様 ・ 吉岡 哲様

 フィッショントラック(核分析跡)から、地質の年代測定を行っている岩野様、吉岡様にお話を伺いました。


どのような会社なのですか。

 社名のとおり、フッショントラックすなわち核分裂の跡から岩石や鉱物等の地質試料の年代を測定しています。 1983年に創立してから、これまでに約4000試料の年代測定を行いました。 これらの測定データは、地質学や考古学の研究の他に、長期安定性が必要な大規模建造物の基礎岩盤となる地質構造の解明に役立っています。 フッショントラック年代測定以外に、鉱物試料の分離調整、屈折率測定装置の開発等も行っています。


フィッショントラック年代測定の原理をもう少し詳しく知りたいのですが。

 鉱物(ジルコンやアパタイト)中には、わずかですがウランが含まれています。そのウラン(238U)は、 火山活動でマグマが溶岩や火山灰などの噴出物として固まった時から自発核分裂の傷跡(フッショントラック)を鉱物中に残します。 238Uの濃度(含有率)がわかっていればそのトラックの密度から年代を求めることができるのです。 ちょっと話がそれますが、トラックは熱せられると消えてしまうため、古代人が火で焼いた石はその時点でトラックが消えてしまいます。 したがってその石の年代を測定すれば原人が火を使っていたことがわかり、考古学的に貴重なデータが得られます。


なぜ原子炉での照射が必要なのですか。

 それは238Uの濃度を求めるためです。 原子炉で試料に熱中性子を照射して試料中の235Uを核分裂(誘導核分裂)させ、 その跡(トラック)を数えて235Uの濃度(含有率)を求めます。 235Uと238Uの同位体比が既知ですから238Uの濃度がわかるわけです。


フィッショントラック年代測定はどのような作業手順で行われるのですか。

 まず、依頼照射(溶岩、凝灰岩、火山灰など)を粉砕・水洗し、比重や磁性などの違いを利用してジルコンやアパタイトという鉱物を集めます。 次に鉱物表面にあるフィッショントラックを化学試薬で拡大(エッチング)し、顕微鏡下でトラックの数を数えます。 原子炉で照射した後、235Uのフィッショントラック数を数え最終的にフィッショントラックの密度から年代値を計算し、報告書にまとめます。


最近原研の研究炉を利用するようになった理由をお聞きしたいのですが。

 以前は、武蔵工大炉や立教大炉を利用していました。 他にオレゴン州立大学炉を併用していますが、ご存知のように武蔵工大炉は運転を停止し、立教大炉も運転日数が減っております。 このため、原研の炉を利用させてもらうことにしました。国内の数少ない研究炉が更に減ってしまうのは我々にとって非常に痛手です。


原研の研究炉に対してご要望等ありますか。

 フィッショントラック年代測定は、原子炉が動いていないと実行不可能です。年間を通じて安定した原子炉の運転を強く希望致します。 また、フィッショントラック年代測定のための熱中性子照射量は、絶対量として非常に小さく放射化される量も微々たるものです。 サンプルの取り出しも極めて簡単であるため、できれば実験室を使わず引き取り出来るところまで、試料回収代行サービスを設けて頂けるとありがたいのですが。 さらに、これは簡単にはいかないかも知れませんが、海外の研究炉と提携し、海外で依頼照射・依頼分析が出来るように日本での研究炉の窓口(センター)になってもらえると、 利用者はもっと増えるのではないでしょうか。


−どうもありがとうございました。

(株)京都フィッショントラック   岩野 英樹様 ・ 吉岡 哲様