材料試験炉部 ブランケット照射開発室   石塚 悦男 ・ 中道 勝

 国際熱核融合実験炉(ITER)では、原型炉用ブランケットを開発するために、試験用ブランケットを取付け、核融合反応で発生した中性子を実際に利用して、 発電と燃料生産の実証実験が行われる。 試験用ブランケット開発の一環として、試験用ブランケットの設計データを取得するため、JMTRを用いた炉内機能試験が計画されている。 炉内機能試験では、ITERの運転を模擬するために、小型モータで窓付の中性子吸収体を回転させることにより、熱中性子束をパルス状に可変できる照射試験体の開発が必要となる。 このため、耐放射線性小型モータを開発し、照射試験を行った。
 モータの開発に際しては、γ線照射環境で使用されていた小型ACサーボモータ(従来品)の基本設計を用い、コイル用巻線及びコイル用成形・固定材には、 耐放射線性に優れたポリイミド銅線(導体線径0.18mm)及びMgO、AI2O2等の絶縁材を含有したシリコン樹脂を用いた。 また、マグネット及びベアリング潤滑剤には、各々Nd-Fe及び耐放射性のポリフェニルエーテルを用いた。試作モータの基本性能は、出力6W、定格トルク13g-cmであり、 照射試験に必要なトルク(10g-cm以上)を満足している。
 試作したモータに減速ギヤ及び接続端子を装着して、JMTRで照射試験を実施したところ、モータは130時間回転した後に停止した。 この時のγ線照射量及び高速中性子照射量(E>1MeV)は、各々3×107Gy 及び3×1020n/m2であり、炉内機能試験に使用できる十分な耐放射線性が得られていることが確認できた。
 従来品と開発品のACサーボモータの耐放射線性を比較するため、JRR-4の炉プールを利用して照射試験を実施した。 照射試験の概要を図1に示す。試料容器は炉心タンクに可能な限り近づけるためアルミニュウム管のの曲部に取り付けた。試料容器には、 従来品と開発品のACサーボモータを各1台装荷し、炉停止後にモータの回転数を測定して正常に動作していることを確認した。 中性子照射量は、試料容器の外側に取付けたフルエンスモニタ(FM)で測定した。開発品のACサーボモータは、JMTRでの照射試験と比較することで減速ギヤの寿命を明らかにするため、 減速ギヤ取外して照射試験を行った。
 照射試験の結果を図2に示す。JMTRで照射した開発品(ギヤあり)は、JRR-4で照射した従来品(ギヤあり)より、耐放射線性が1桁以上向上したことが明らかになった。 また、JMTRの照射試験と比較すると、同じ開発品であっても、「ギヤなし」の方の耐放射線性が向上していた。 この原因は、減速ギヤの有機系の潤滑剤が固定したためと考えられる。このため、潤滑剤を無機系に変更する、或いはオイルレスの減速ギヤやベアリングを使用すれば、 更に耐放射線性が向上すると考えられる。

 モータの耐放射線性が更に向上すれば、原子力発電所のメンテナンスや材料の照射試験に画期的な変化をもたらすことが期待できる。 照射試験であれば、従来のキャプセルをロボット化し、中性子照射下における材料強度等のデータをリアルタイムで測定できるようになり、材料開発が加速するであろう。
 JRR-4の炉プール設備は、アクセスが簡単であり、簡易照射試験を行うには優れた設備である。 今後、線量評価、廃棄物処理等の課題が整理できれば広い用途の照射試験に対応できるであろう。最後に、研究炉利用課、JRR-4管理課及び工作技術グループのスタッフには、 大変お世話になった。以上、記して謝意を示したい。


図1.照射試験の概略図 図2.照射試験結果