今号では、JRR-4の建設プロジェクトに関与された原研OB平山省一様からの投稿を紹介します。


 JRR-4は原研内から生まれた構想でなく、当時の運輸省技術研究所が原子力船「むつ」の開発に備えて希望した遮蔽実験用の研究炉を、 原研が引き受けることとなって俄に浮上したプロジェクトで、原研内で関与した職員は少なく、その時の詳しい経緯は時の彼方に消えかかっています。少し思い出話を書いてみます。
 JRR-4は遮蔽実験用の道具としての研究炉を完全な競争入札で発注しました。これまでの見積もり合わせの発注方式と異なり発注後の仕様変更は許されず、 発注者の必要とする性能仕様をハッキリ規定してそれを実現する原子炉設計は受注者に任せられる発注仕様書の作成が要求されました。 それで、JRR-3の設計・発注経験を活かして私が係長をしていたJRR-3建設室の原子炉係が引き受けました。
 JRR-3までの研究炉は技術的政治的に建設可能な原子炉を作ってそれでできる実験を後から計画したものでしたが、 JRR-4は「はじめに遮蔽実験ありき」でそれに適した原子炉仕様を決めなければならず、 原子力船「むつ」プロジェクトの遮蔽実験計画に参画していた原研の宮坂駿一研究員らと始めに何度も打ち合わせをもち、実験者の要求を取り入れて細かい仕様を決めました。
 遮蔽実験に適したアクセス性の良いスイミングプール型採用はすぐに決まりましたが、実験者の被ばくをより少なくする為、 プールの水深はアメリカでは通常7メートルなのを10メートルに変更してプール上面の線量を低く規定しました。経験をもつ外国のメーカーは、 それでもプール上面に取り外し可能のプラスチック製の蓋を設ける設計で応札してきましたが、落札した日立の裸の炉心の設計では、 受注後の詳細設計でプール上面の線量が仕様を満たさないことが分かりました。日立は炉心タンクを設け上部に温水遮蔽層を作る設計変更を行って、 アクセス性をそれほど損なわずやっと仕様を満足させました。完全競争入札で予算3億円より1億円予算が節約できましたが、発注仕様書の作成に苦労した他、 建設時にこんな苦労がありました。また、重量の大きい遮蔽体付測定器をプール上面のブリッジ台車から吊るして、 炉心と実験供試体に対し精度高く再現性よく配置したいという実験者の要求は、設計者にとって厳しい仕様になり、撓みを最小限に抑えた極めて頑丈なブリッジにしたり、 プールのアルミライニングを厚さ5ミリにして工場で定盤を作るようにプレハブして持ち込むなどメーカーは苦労しました。
 JRR-4の最大の不幸は、建設工事終了後の機能試験時のクレーン事故で、運輸技研から出向していた研究員が頭部に社会復帰不能の大怪我をされたこと、 遮蔽専用の研究炉を建設したのに原子力船「むつ」の試運転時に遮蔽トラブルが発生したことです。しかしその後、スイミングプール型のJRR-4は汎用性が良く、 その特性を活かして原研で広く活用されていることは嬉しいことです。
 研究炉、特に永年稼動した老原子炉のお守はご苦労の多いことと察しますが、 大洗のJMTR、常陽の照射施設と共に中性子源としての研究炉の使命は原子力開発の続く限り存在します。 新しい原子力開発のセンターの重要施設として、今後も縁の下の力持ちとなって安全運転を心掛け、原子力技術開発への貢献をお願いします。

    平山省一



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