■悪性脳腫瘍に対する熱中性子捕捉療法■


国立療養所香川小児病院 脳神経外科   中川 義信

 悪性脳腫瘍に対する熱中性子捕捉療法とは、従来の放射線治療(γ線やX線等)とは異なり、α線等を用いた細胞内内部照射と言える。 その原理は、腫瘍細胞内にホウ素(10B)を取り込ませておき、外部より熱中性子を照射し、 核反応により発生するα粒子(4He核)とリチウム(7Li核)を照射するものである。 これら重粒子の飛程はちょうど腫瘍細胞の約1個分の大きさに相当する(約5-10µm)。 そのため、本治療法は正常の脳神経細胞を傷つけることなく、正常組織内に浸潤した腫瘍細胞のみを細胞レベルで選択的に破壊することが可能であり、 悪性脳腫瘍に対する理想的な治療法と言える。
 1968年より現在までに150名の悪性脳腫瘍患者に対して165回(うちJRR-2で32回)の熱中性子捕捉療法を行った。 MRIを用いて治療効果を検討したところ、64%の患者さんで治療後腫瘍の縮小あるいは消失を認めた(下図参照)。

熱中性子の照射計画(MRI像)

治癒経過(MRI像)

 一方、5年生存率は25.7%と他の治療法と比べてはるかに優れた成績が得られた。 また治療後10年以上生存した症例が9名に達した。 更に中性子捕捉療法は乳幼児から高齢者までに安全に施行できる治療法で、治療効果のみならず、治療後の患者さんの日常生活の質(QOL)が良いことが明らかとなった。 現在熱中性子に代わり熱外中性子を用いる研究を進めており、今後の治療成績の向上が期待されている。