●東京都立大学理学部 森崎 重喜
アルミニウム陽極酸化皮膜には、電解液中のアニオンが含まれているので、皮膜中のアニオンの分布を正確に測定することによって皮膜生成過程を明らかにすることができる。
ホウ素は冷中性子に対する反応断面積が大きく、即発γ線分析法が最も得意とする元素の一つであり、その感度と検出限界はそれぞれ1000cps/mg,2ngである。
JRR-3Mにて1000秒間中性子照射(冷中性子束1.1×108/cm2・s)を行い、
即発γ線のスペクトルを測定した(図1)。あらかじめ標準試料(高純度ホウ酸)の測定により作成した検量線からホウ素の定量値を求めた。
図1.バリヤー型皮膜の即発ガンマ線スペクトル
バリヤー型皮膜(電解コンデンサー用)は0.05M四ホウ酸ナトリウム電解液を用いて、定電流法で作成した。
図2でホウ素の深さ分布を示す横軸の左端は電解液/酸化物界面E/O)に、右端は厚さ150nmの化成皮膜の酸化物/金属界面(O/M)にそれぞれ対応する。
E/O界面から皮膜の中央部にホウ素は分布し、含有量は平均して約0.48wt%であった。一方、中央部からO/M界面の範囲ではホウ素はほとんど検出されなかった。
図2.酸化物皮膜中のBの分布図
皮膜の模式図(図3)はバリヤー型陽極酸化皮膜の中央部を境とした内層(ホウ素を含まない高純度アルミニウム領域で O/M界面で生成した酸化物)と外層(ホウ素を含む領域でE/O界面で生成した酸化物)を示している。
図3.酸化物皮膜の断面図模式図
酸化物皮膜はE/O界面とO/M界面で生成しており、Al3+とO2-の輪率がほとんど等しいため、 内層と外層の厚さも等しくなっている。皮膜中央部の点線はアルミ地金の最初の位置に相当する。 ホウ素の取り込みの第一段階がホウ素を含むアニオンのアルミニウム水和酸化物への吸着であるとすれば、 ホウ素は陽極酸化皮膜中の高電場でも酸化アルミニウム中を泳動しないことから、バリヤー型皮膜は少なくとも二層構造をとることになる。