■読者の声■


神奈川工科大学  平山 省一

 昨今、原子力を取り囲む社会情勢は暗いことが多く、文字通り、世紀末を思わせる毎日ですが、昨年の9/29、30の両日、 水戸三の丸ホテルで開催された原研主催の利用成果発表会で、各方面の先端研究分野の専門家のお話と研究炉・試験炉のそれに対する貢献ぶりを伺い、 久し振りに、雲間から漏れ射す日光を見るような思いがしました。
 中村元読売新聞論説委員の特別講演は、新聞記者の目を通してみた日本の原子力開発の神代の時代のお話として含蓄に富み、古き良き時代を懐かしく思い出しました。 また、一色研究炉・加速器管理部長の講演から、原子炉銀座、アパッチ峠等の言葉が死語に近くなっていることを知り、感無量のものがありました。 この古き良き時代の原研は、多数建設された研究炉・試験炉の運転管理に振り回されて混乱を招き、動力炉開発のための新しい革袋の動燃が創設され、 大きなショックを受けました。一時、研究炉・試験炉等の利用も低迷の時期があったようですが、その後、この混乱とショックにめげず、 ユーザーからも大いに期待される研究炉・試験炉に成長させ、今回のような利用成果発表会が開催できたことは、原研OB及び現役の方が、逆境の中、 原子炉の運転管理に涙ぐましい努力をされた賜物と大いなる敬意を表します。私は、古き良き時代の原研で、研究炉・試験炉の建設に従事し、 原研混乱とショックの一因を作った一人として、誠に嬉しくご同慶の至りです。
 この成果発表会は、日本特有の縦割り組織の幣を乗り越えた原子力科学研究所と大洗研の合同の企画と理解し、大変嬉しく思いました。また、セッションについても、 非常に広い利用分野にわたって、魅力的な名称をつけて構成され、研究炉・試験炉関係者の意欲がひしひしと伝わり感心しました。
 今後、大洗の体制組織がどうなるか予断を許しませんが、大洗にはJMTRのほかに動燃の「常陽」があり、近く、HTTRが戦列に加わり、「試験炉パーク」が形成されます。 体制、組織と関係無く、勢ぞろいするこれら試験炉群の利用成果も加えて、この会合が10回、20回と続き発展することを祈念します。
 原子力研究で活躍する中性子源には、第四部の総合討論でも論じられたように、連鎖核反応を利用する原子炉ビームを利用する加速器の二本柱があり、 原子力科学研究所では、後者による中性子科学研究センター設立構想が着々と実現に向かっていると聞きます。 21世紀には、東海と大洗が、日本・アジア・世界の原子炉と加速器の二大中性子源による利用研究のメッカとなり、更なる飛躍を遂げることを期待します。
 さて、原子力時代を論ずる時、私は、核分裂、核融合と核反応で分類するより、初期の中性子利用時代とそれに続く本格的原子力時代に分類する方がよいと思っています。 常温で核反応可能な中性子の利用が、20世紀初めの原子物理学者の予想を裏切って、早くも20世紀半ばには、核分裂炉を実用化しました。 実用化の可能性が見えてきた核融合技術も、そのトップバッターのDT核融合炉は、「エネルギープアー、中性子リッチ」です。核融合屋は中性子利用を敬遠しがちですが、 大きな正味のエネルギー収支を必要とせず定常核燃焼だけを行わせれば良い技術的に開発の容易な中性子源炉を実用化させて、先行する中性子利用(核分裂)技術をサポートしつつ、 核融合技術、特に定常核燃焼技術に習熟して動力炉に向かうのが、技術開発の常道と思います。試験炉の仲間に、DT核融合の中性子源炉がなるべく早く参加して欲しいと思っています。
 最後に、今回はまだ出番ではないようですが、常温の核融合反応を起こす素粒子µオンが中性子と同じく、 核融合技術の早期実用化や科学研究のプローブとして活躍するという私の夢が実現することを祈りつつ筆をおきます。