さて、ずいぶん永いことご無沙汰してしまったような気がしますが、またまた研究炉利用のよもやま話をさせて頂きます。 今号は、RIの製造です。前回の「えとせとら」で放射化について述べましたが……、そうです、放射化された物質それがまさしくRIなのです。 RIはラジオアイソトープの略で、日本語では放射性同位元素といいます。 通常の元素が放射性を帯びたために放射性同位元素となったのです。それではなぜRIを製造するのでしょうか。それはRIから放出される放射線(放射能)を利用するためです。 放射能というと原爆とか、我々に害を与える何か恐ろしいものを連想されるかも知れませんが、上手に使えば非常に有用で、実際多くの分野で利用されているのです。 例えば、癌の治療に198Auや192Irといった医療用線源RIが用いられています。 これは腫瘍の中にそれらの線源を刺入れる等して、発生する放射線で直接腫瘍細胞を破壊するものです。 また、材料を破壊しないで欠陥の有無や内部構造を検査する非破壊検査にRIが用いられています。 これは、RIから発せられる放射線の強度が材料内部に欠陥等があると変化することを利用するものです。同様の原理で材料の厚さ計、密度計、濃度計等があります。 体内に放射性医薬品を投与し、その分布を体外から計測したり、あるいは採取した血液や尿中の放射性を測定することにより各種臓器の形態、 機能さらには生化学的情報を得るといった利用もあります。 他に、植物が土壌から養分をどのように採取しているかをトレーサ用RIで調べる方法、 鉱物・考古学・地質学・人類学等の試料が存在していた過去の年代を試料中に残存する娘核種の量や放射能から求める年代測定、 食品に放射能をあて発芽・発根を抑制し保存期間を延長する利用、食品に放射線をあて殺菌する利用等があります。 放射線の利用の全てが研究用原子炉で製造されたRIによるものではありませんが、放射線は我々の生活から切り離せない存在となってきているのです。 最後に、放射線とアイソトープの利用方法を下表に示しましたのでご参照下さい。
放射線とアイソトープの利用方法
利用方法 | 利用法(方法、製造) | ||
トレ|サ利用 | 物理的トレーサ | 流速、流量の調査、漏れ調査、漂砂や河泥の移動調査、機械の摩耗測定、潤滑油の循環状況の調査、溶鉱炉の減損量測定、工程解析 | |
化学的トレーサ | 分析化学的利用、化学反応の機構の研究、化学構造の決定、生体機能の研究、生化学研究、遺伝子工学研究、医学研究、体内診断薬、体外診断薬、新薬開発 | ||
照射利用 | 透過、吸収、散乱作用 | 計測制御 | 厚さ計、液面計、レベル計、密度計、濃度計、雪量計、地下検層計、中性子水分計、硫黄計 |
非破壊検査 | γ(X)線ラジオグラフィ、中性子ラジオグラフィ | ||
診 断 | X線撮影、X線透視、X線造影検査、X線CT | ||
電 離、励起作用 | イオン発生 | 煙感知器、蛍光灯のグロー放電管、表示用放電管、真空計、ガスクロマトグラフ、避雷針、静電除去装置 | |
光の発生 | 自発光塗料 | ||
分 析 | 蛍光X線分析、硫黄計 | ||
化学的作用 | 改 良 | 耐熱性電線、発泡ポリオレフィン、熱収縮性チューブ、硬化塗装、強化プラスチック、コンクリートポリマー、強化木材 | |
生物学的作用 | 殺菌、殺虫、防 虫 | 医療用具の減菌、検査用具・実験動物飼料・食品の殺菌、害虫防除 | |
保 存 | 発芽防止、塾度調節 | ||
育 種 | 品種改良、生育調節 | ||
治 療 | がんの治療、甲状腺治療 | ||
原子核反応分析、治療 | 微量元素分析、アクチバブルトレーサ法、脳腫瘍治療 | ||
熱 源 利 用 | アイソトープ電池 | ||
年 代 測 定 | 考古学的、地質学的試料の年代測定 |