エネルギーシステム研究部 熱流体研究グループ   呉田 昌俊

 原研では将来型炉として低減速軽水炉の研究開発を進めている。 熱流体研究グループでは、燃料棒が稠密に配置された炉心内を流れる沸騰流を対象とした詳細熱流動解析コードの開発を進めている。 開発中のコードは、計算領域のスケール毎に数種類あるが、いずれも実験データを用いて検証する必要がある。
 コードの検証に必要な物理量の一つにボイド率がある。ボイド率とは、蒸気など気相が空間を占める体積割合を指す。 我々が必要なデータは、狭い流路内を流れる沸騰流のボイド率である。そこで、目的に応じて数種類の試験体を製作し、中性子ラジオグラフィによりボイド率を計測することとした。 本誌では、2種類のボイド率計測技術と2種類の試験体での計測結果を紹介する。

 ボイド率計測実験は、JRR-3の熱中性子ラジオグラフィ装置(TNRF)と熱流動実験装置を用いて実施した。 中性子ラジオグラフィで試験体の内部を流れる沸騰流をグレースケールのカメラで観察すると、水の割合が高い所は黒く、蒸気の割合が高い所は白っぽく表示される。 記録したデジタル画像を画像処理してボイド率を求めた。解析コードでは、ボイド率を3次元で計算し、これが時間的に変化する。 これに対応してボイド率の3次元データと時間変化データが必要となる。 そこで、中性子ラジオグラフィによりボイド率の時間変化を計測する技術(HFR-NR)と3次元分布を計測する技術(NR3DCT)の2種類を独自に開発した。
 図1に、矩形流路の片面を加熱して発生する蒸気泡の時間変化をHFR-NR技術を用いて測定した結果を示す。 本データは、1125フレーム/秒で記録した画像を処理して求めた結果であり、蒸気泡の発達の過程を定量的かつ直感的に観察できた。 このような計測は、本技術以外では極めて困難であり、世界で初めて測定に成功した。この成果は、冷却限界モデルの改良に役立てられ、日本機械学会から研究奨励賞を授与された。
 図2に、低減速軽水炉の炉心を模擬した試験体(稠密バンドル試験体)に空気/水二相流を流して、ボイド率の空間分布をNR3DCT技術で測定した結果を示す。 ここでNR3DCT技術とは、中性子ラジオグラフィ技術とコンピュータ断層撮影技術(CT技術)、そしてボイド率計算法を融合した技術である。 図2は、試験体を180°の角度までステップ状にゆっくりと1°づつ回転させて得た透視像から断面像を計算し、それを3次元に積層して表示した結果である。 試験体内の7本の管は燃料棒を模擬しており、棒間のギャップは1?oである。本技術の開発により、図3のように液膜の空間分布を知ることができるようになってきた。 なお、空間分解能は0.1mmである。本データは、詳細3次元解析コードの検証と改良に役立てている。
 JRR-3のTNRF施設は、世界のトップレベルの中性子ラジオグラフィ施設であり、この共同利用施設を用いて多分野にわたり優れた研究がなされてきた。 これは、各実験グループの先進的な研究活動と共に、研究炉利用課のバックアップ体制及びスタッフの誠意によるところが大きい。紙面を借りて、深く感謝の意を表したい。


図1.沸騰流の測定結果 図2.稠密バンドル試験体内を流れる二相流の空間分布の計測結果