【宇宙塵試料の機器中性子放射化分析】
●立教大学 福岡 孝昭 ・ 京都大学 田澤 雄二 ・ 青山学院大学 斉藤 裕子
宇宙塵は隕石と同様に地球に落下してくる地球外固体物質のうち、おおよそ1mm以下のものをいう。宇宙塵の故郷の多くは隕石と同様に小惑星であり、
彗星起源も考えられている。これらは46億年前に太陽系ができた頃の情報を持っていると考えられる。月や火星起源の宇宙塵も考えられるが、まだ見つかっていない。
さらに太陽系外を起源とする物もあると考えられているが、はっきりしていない。宇宙塵の研究の目的はその起源がどこか、降下してくる量に時間変化があるか、
そして太陽系の形成進化との関係を解明することにある。
微小な宇宙塵試料は、陸上では地球物質にまぎれて見つけることは困難なため、深海底や南極氷床から回収されている(写真1)。
このような宇宙塵を地球の塵と区別する方法として、その元素の組成の違いから知ることができる。
宇宙塵1粒の重量は1mg以下のものが多く、1µg以下といったものもある。このような微小試料の元素組成を定量分析できる方法は、
現在でも原子炉を利用した中性子放射化分析しかない。近年開発された多種の高感度分析法でもまだ達成されていない。
宇宙塵試料一粒ずつについてJRR-3炉のPN-3照射施設で8〜10分間の気送管照射で、Al、Ca、Mg、Na、Ti、V、Mn、Na等の分析を行った後、HR孔での100時間照射で、
Fe、Co、Au、Ir、Cr、Sc、La、Sm、Eu等の分析を行い、合計20元素以上の分析に成功している。
µgオーダーの試料は通常肉眼では見ることができない。
しかしPN-3での照射後のγ線測定には、原子炉から出てきた試料をできるだけ短時間(1〜2分以内)でγ線検出器上に置く必要がある。
そこで我々は約3mm四方の高純度のポリエチレンフィルムを用いて作られた袋に宇宙塵を封じ込め、迅速に宇宙塵試料をγ線検出器上に運ぶことに成功した。
また、HR孔で100時間照射しても、生成する放射能はごくわずかであるので、井戸型Ge検出器を用いてγ線測定の感度を上げている。
宇宙塵一粒ずつの機器中性子放射化分析には試料とほぼ同じ大きさの元素濃度既知の標準試料を準備する必要がある。
多くの基礎実験の結果、地球上の岩石に普通に含まれている元素(親石元素)については、岩石標準試料(JB-1)粉末から作製したガラスの破片、
Au、Ir等宇宙起源(小惑星起源)の証拠になる親鉄元素については合金線のチップを用いている。
図1にこれまでの分析結果の例を示した。地球物質の例として岩石標準試料(JB-1)を、宇宙塵の例として南極氷中から回収された宇宙塵試料を示した。
横軸に元素を揮発性の強さの順に並べ、縦軸にはC1コンドライト隕石の値で規格化した元素濃度を示した。JB-1(地球物質)にはAu、Ir、Osは含まれず、
La、Sm、Ceといった希土類元素が高濃度で存在することがはっきりわかる。宇宙塵の組成の多くは、C1コンドライト隕石の元素組成に近い(縦軸の値がほぼ1)ことがわかる。
今後さらに多数の宇宙塵試料を分析し、太陽系進化の過程を明らかにするとともに、落下年代と組成の関係、月、火星起源の宇宙塵の存在等を明らかにしていきたい。
最後に、原研炉の利用に当たり、日本原子力研究所東海研究所(特に利用課)の方々、大学開放研の方々には大変お世話になっております。
また、高感度のγ線測定に当たり、東京大学宇宙線研究所にもご協力頂いています。記して感謝します。
写真1.南極氷床中より回収された宇宙塵 a.大気圏突入(流れ星)時に融けて固まったもの b.大気圏突入時に融けなかったもの (国立極地研究所第39南極地域観測隊 パンフレット1997より) |
図1.宇宙塵試料の機器中性子放射化分析結果の例(未公開) |