【鉛ビスマス冷却材のポロニウム対策の研究】

東京工業大学 原子炉工学研究所 小原 徹、三浦 照光、関本 博

 次世代の革新型原子炉の冷却材として鉛ビスマス共晶合金に関心が寄せられています。鉛ビスマス共晶合金は融点が低い(125℃)上に沸点が高く(1670℃)、また化学的に不活性で水や空気と触れても反応しないという特徴を持っています。鉛ビスマスを冷却材に用いると小型で長寿命かつ安全性の高い原子炉が設計できることがわかっています。また鉛ビスマス合金は原研でも研究が進められている加速器駆動未臨界炉で冷却材やターゲットとして利用することが検討されています。
 鉛ビスマス冷却材の実用化のために解決すべき課題にポロニウム対策があります。鉛ビスマス合金中のビスマス209が中性子を捕獲するとポロニウム210が生成されます。ポロニウム210はα線を放出する核種なのでその安全対策のための技術を確立しておく必要があります。その中でも冷却材の配管の内側に付着したポロニウムを効果的に除去する技術を開発しておくことは特に重要です。
 ポロニウムを除去するために溶剤を使用するのは得策とはいえません。ポロニウムを含んだ廃液が大量に発生してしまうためです。これに代わる方法としてベーキングによってポロニウムを除去する研究を行っています。
 この研究のためにはポロニウムをごく少量含んだ鉛ビスマス合金試料を使った実験を行う必要があります。この実験に使う試料を用意するためにJRR-4の中性子ビーム設備を利用しています。JRR-4の中性子ビーム設備では任意の形状・重さの試料に中性子照射を行うことが出来ます。また中性子フラックスレベルが低いので、鉛ビスマス合金試料に中性子を少量照射して鉛ビスマス中にごく僅かのポロニウムを生成するのに最適な設備です。図1は中性子ビーム設備で鉛ビスマス合金試料に中性子を照射したときの写真です。

図1 JRR-4中性子ビーム設備での中性子照射の様子(鉛ビスマス試料はポリエチレン容器の中に入っている)

図2 加熱吸着試験装置

 JRR-4で中性子を照射した鉛ビスマス試料は、東京工業大学へ運び非密封RI用の実験室で実験に使用しています。実験はこの研究のために開発した加熱吸着試験装置(図2)使って行っています。実験はまず鉛ビスマス試料を加熱し蒸発したポロニウムをいろいろな材料に吸着させ、次にこのポロニウムをベーキングによって再放出させるということを、条件を変えて行っています。
 図3は実験の結果の一つです。これは鉛ビスマスから蒸発したポロニウムを石英ガラスに吸着させたのち真空中でベーキングをした時の、ベーキングによるα線の計数率の変化とポロニウム以外の付着物の重量の変化を表しています。このときのベーキングの温度は300℃で、いろいろな時間でベーキングを繰り返し行いその効果を調べました。この結果から、300℃でベーキングするとポロニウムは石英ガラス表面から除去されるが、他の非放射性の物質は除去されないことが分かりました。この特性をうまく利用するとポロニウムと一緒に付着した他の物質は除去せずにポロニウムだけを効果的に除去できる可能性があります。このような実験を材料や条件を変えて繰り返し行ない、他の材料の場合でも同じ特性なのか、より効果的にポロニウムだけ除去するにはどのようにしたらよいかなどを調べています。
 他にも、鉛ビスマスからのポロニウム蒸発・吸着特性を調べる実験や、金属内のポロニウムの拡散・移動現象に関する実験も行っています。ポロニウムはキューリー夫妻が発見した研究の歴史の長い放射性同位元素ですが、その重金属中での挙動についてはまだ分からないことが多くあります。JRR-4を利用した実験を通じて重金属中のポロニウムの特性を解明していきたいと思っています。