■Wilson病のモデル動物であるLECラットにおける銅代謝異常の解析■


北海道教育大学教育学部   岡安 多香子

 Wilson病は遺伝的欠損により肝臓や脳内に銅が蓄積するため肝・脳障害をきたす疾患である。 LECラットは北海道大学実験動物センターで樹立された純系ラットで晩発性に劇症肝炎を自然発生しWilson病のモデル動物として有効であることが近年我々の研究で証明された。 本研究は研究炉を利用して製造された64Cu酢酸銅を用いてLECラットの銅代謝異常を解明し、Wilson病の病因解明を目的としている。
 64Cuを経口投与し、血漿64Cu濃度の継時的変化を追跡した。 LECラットでは1〜2時間後に腸管からの吸収による上昇が対照(LEAラット:LECラットと同系で劇症肝炎を発生しないラット)と同程度にられたが、 その後は減少し対照にみられた肝臓で新生された銅結合蛋白分泌による血中64Cuの再上昇は検出されなかった。

64Cu-酢酸銅経口投与後の血漿内64Cu濃度の継続的変化

64Cu-酢酸銅経口投与18時間後の肝細胞内64Cu分布

 64Cuの経口投与後に麻酔下に開腹し胆汁採取した。 LECラットの胆汁中の含量は対照の十分の一であった。64Cuの 経口投与18時間後のLECラットの臓器全体の64Cu濃度は対照と 顕著な差はみられず腸管からの銅吸収亢進は否定的であった。以上の結果よりLECラットの肝臓 への銅蓄積の原因は、腸管吸収の増加によるというより、血液・胆汁中への排泄の減少である ことが示唆された。
 64Cuを静脈注射した場合のLECラットの肝臓への銅蓄積は 対照の4倍であり、主に細胞質分画に集中した。現在メタロチオネインを含め肝臓内銅輸送機 構を解明中である。(共同利用)