■CuGeO3の特異な磁性と結晶構造の変化■


材料研究部中性子散乱研究室   片野 進

 CuGeO3は銅系の酸化物高温超伝導体に関連して詳しい研究が始められていたが、その結果、 低温においてスピン・パイエルス状態という特異な状態に変化することが明らかになった。 この物質中、銅は一次元的な鎖をつくり磁性を担っている。 この銅のスピン(図1の矢印)は高温ではバラバラな方向を向いているが、低温(14K以下)になると隣り合うスピン同士が強い関係を持ち、 全体として磁性が消えてしまう。この転移の際、格子にも変形が起こる(太い矢印)。即ち、スピンと格子の結合を通じて、新しい特異な状態が形成される。

図1.高温(左)から低温(右)になった時のスピン状態(矢印)と格子(太い矢印)の変化

 このような物質に圧力をかけると、その転移温度が1GPa(約1万気圧)で5Kも上昇することがわかった。 この異常な増大が、転移の特徴の一つである格子変形とどのように関連しているかを調べるために、圧力を2GPa近くまでかけて構造変化を調べた。 実験の結果、転移温度の大きな上昇にも関わらず、格子変形に対する圧力効果は非常に小さいことがわかった。 常圧下での変形に比べると、銅の変位はかなり小さく、むしろこの鎖方向に垂直な面内での酸素の変化が大きい(図2)。

図2.スピン・パイエルス状態での複雑な原子の変位
問題は銅と酸素の変位で、下の数字はそれらの変位の割合の圧力下における変化を示す。

 従ってこの物質の特異性を理解するには、この面内での異方向的な変位を理解すること、 さらにはその原子の集団的運動(格子運動)に対するより詳細な研究を行うことが必要であると考えられる。