●青山学院大学理学部 藤田 治、秋本 純 / 東京大学物性研究所 西 正和、加倉井 和久
電子が持つスピンの静的振る舞い(スピン秩序)は、例えばわれわれに馴染み深い磁石の性質を生み出している。
最近話題になっている高温超伝導体、または重い電子系ではこのスピンの低温における動的振る舞い、「スピンゆらぎ」がこの新物質の物性と深い関連を持つことが指摘されている。
よってこのスピンゆらぎの本質の解明は上記の物性の理解にとって重要である。
中性子磁気非弾性散乱はこのスピンゆらぎのエネルギーの波数依存性を直接観察できる手段として注目を浴びている。
このスピンゆらぎが最も顕著に現れる系として一次元磁性体が知られている。
この物質は磁性を担うスピン間の相互作用が非常に異方的で一次元のスピン鎖の様な振る舞いをする。
CuGeO3はこのような低次元磁性を持つ物質の一つで、スピンS=1/2を持つ銅(Cu)の原子が酸素(O)を介して鎖を形成している。
この物質では隣同士の銅のスピンが低温(T<14K)で2個づつのペアを作り、見かけ上磁性を打ち消してしまい、同時に格子を歪ませる(片野氏の図参照)。
このような系は磁性物理の中でスピン・パイエルス系と呼ばれ、
このスピンが持ち得る最低のエネルギーの状態(基底状態)が顕著な量子力学的状態であることから興味の対象になっている。
この基底状態では巨視的な磁性は消えているが、微視的な磁性はスピンゆらぎとして存在する。
そのスピンゆらぎによるゼロ磁場中のピークを非弾性中性子散乱で観測したのが図(a)に示してある。
このスピンゆらぎに外部磁場(6万ガウス)を加えるとピークが三つに分裂するのが見える(図(b))。
この分裂がスピン・パイエルス系のスピンゆらぎの特徴を表している(トリプレット状態)。
この例のように中性子散乱実験は磁性物質の「スピンゆらぎ」の本質を研究する上で重要な役割を果たしている。(共同利用)
非弾性中性子散乱でみたCuGeO3の
a)ゼロおよび b)6万ガウス磁場中のスピンゆらぎ