●ホット試験室ホット試験技術課 天野 英俊
原子炉用燃料・材料の照射は、その照射挙動を把握するうえで具体的かつ直接的な研究手段である。
原研では、昭和35年臨界に達したJRR-2の利用を皮切りに、JRR-3、JMTR等におけるキャプセル照射、NSSRを用いたパルス照射などさまざまな照射実験が行われてきた。
これら照射が終了した原子炉用燃料・材料は、照射後試験施設に移送され、目的に沿って各種照射後試験が実施されている。
照射後試験施設としては、昭和36年に日本初の照射後試験施設である東海ホットラボが、45年にはJMTRホットラボ、54年には燃料試験施設がそれぞれ稼働を開始した。
これら各施設における照射後試験の変遷は、燃料・材料の照射研究の歴史を反映している。
東海ホットラボを例に取ってみると、照射後試験は、当初、JRR-2用ウラン-アルミニウム合金燃料の国産化の研究、セラミックス燃料の研究として炭化ウラン、
二酸化ウラン等のFP挙動を中心に基礎的及び工学的研究が実施された。
照射後試験の内容は、燃料・材料のミクロ組織変化の把握を目的とした光学顕微鏡による金相実験(観察倍率〜x800)、γ線測定による放射性元素分析等であった。
しかし、昭和40年頃からは、燃料の国産技術確立を目指したJPDR実用燃料照射後試験や多目的高温ガス炉の被覆粒子燃料に関する研究も加わり、さらに、昭和50年頃からは、
出力急上昇時のペレット・被覆管相互作用研究やNSPRを用いた反応度事故時のパルス照射実験等の被覆管を含めた原子炉燃料の総合的な照射挙動研究が開始された。
このため、照射後試験でも、より詳細な照射挙動解析を行うために試験内容の高度化が計られ、EPMA(SEM)による表面観察や元素分析、質量分析計による同位体元素分析、
X線回析を用いた結晶構造解析等の試験が新たに加わった。
高温クリープ試験装置
HTTRの高温構造部材の照射後クリープ特性データを取得する装置
一方、材料関連では、昭和40年頃から国産圧力容器鋼材の中性子照射脆化に関する研究が、50年頃から高温ガス炉の黒鉛、耐熱合金の研究が開始され、
50年度後半からはHTTR及び核融合炉材料の研究が開始された。
照射後試験も当初は、引っ張り試験やシャルピー試験等の基礎的なデータを取得するための材料試験が主流であったが、燃料分野と同じく、
温度条件を考慮したより詳細な照射挙動を解析のため、破壊じん性試験装置や高温クリープ試験装置(上図)、真空高温引っ張り試験装置等が新たに設備された。
最近の照射後試験は、年々その目的とともに試験項目の微細化、試験内容の高度化が計られてきている。
燃料関連のうち、軽水炉燃料の分野では、高燃焼度化(燃料集合体平均55GWd/t)及び現状の定格出力運転からより柔軟な運転(負荷追従運転)に対応するための高性能化が研究課題として上げられている。
これによって生じる問題点は、
1)中性子照射量の増加による照射成長
2)被覆管の酸化及び水素脆化
3)FPガス放出の増加及び燃料-被覆管相互作用(PCI)の促進
がある。
これらの対策として、被覆管の改良(高耐性Xr管、Zrライナー管等)や、燃料ペレットの改良(大粒径結晶粒子、中空ペレット等)が検討されている。
これら軽水炉燃料研究に関する照射後試験は、主に燃料試験施設及びJMTRホットラボで行われており、従来の試験項目に加え、
高燃焼度領域における燃料ペレットの熱物性を調べるため、ペレット融点測定装置(図1)、ペレット熱拡散率測定装置(図2)等の新規試験装置が設備された。
図1.ペレット融点測定装置
タングステンカプセルに封入した燃料ペレットを加熱溶融させ、融点を求める装置
図2.ペレット熱伝導率測定装置
燃料ペレット片にレーザ光をパルス照射し、表面の温度変化により熱拡散率を測定し、熱伝導率を算出する装置
そのほか、高燃焼度領域の研究として100GWd/t加速照射試験や、 プルトニウムの核不拡散性及び環境安全に優れた処理処分法となる安定化プルトニウムの照射がJRR-3Mで行われ、照射後試験が開始されている。
透過型電子顕微鏡
金属等の物質を分子・原子レベルで観察したり分析する装置
また、材料関連でも、HTTR及び核融合炉材料の研究照射が継続され、さらに、原子炉構造材の経年変化の研究に関する材料照射が実施されているが、 これらの材料の照射後試験でも、透過型電子顕微鏡(上図)やスモールパンチ試験など高度な試験装置が整備された。 加えて、高サイクル疲労試験装置、イオンマイクロアナライザ等の新規装置の開発や現有設備の改良も順次実施されており、 今後の燃料・材料の照射研究に鋭意対応すべく照射後試験技術確立のための不断の努力がなされている。