●研究炉技術開発室 曽山 和彦
中性子は電化を持たないために、電子やイオンのように、電場や磁場で輸送、分岐、収束することはできません。
このため、中性子の輸送には、低速中性子が光のようにニッケルなどの金属表面で全反射することを利用した中性子導管が用いられています。
研究炉・加速器管理部では、中性子の輸送効率を上げ、分岐・収束技術を可能にするため、金属人工多層膜のブラッグ反射を利用した高性能スーパーミラーを開発しました。
これは周期を変化させたNi/Ti多層膜で、ニッケルミラーの3倍の全反射臨界角で、95%以上の反射率で中性子を反射することができるものです。
この高反射率化は、Niに不純物を同時スパッタし界面粗さを低減させることによって達成されました。このスーパーミラーをJRR-3Mの熱中性子導管として使用すれば、
全中性子強度は倍に、さらに1Å程度の短波長の中性子が増加することによって実験装置では、5倍から20倍に性能が向上することが予測されます。
このため、多くの利用者から現行の中性子導管をスーパーミラー導管に変更する要望が寄せられています。
このほか、スーパーミラーを応用した中性子制御機器として、冷中性子ビームを1.6mの極小半径で分岐させ、新しいビームポートを設置できる中性子ベンダーや、
中性子を集束させるスーパーミラー集束機器の技術開発にも成功しており、今後JRR-3Mを中心とした中性子ビーム利用に供せられる予定です。
スーパーミラー導管とニッケル導管の中性子スペクトル比較