●国際原子力総合技術センター 野口 晄
私たちの東京研修センターは、設立以来、一貫して各研修コースに秘密封RIを使用する実験実習を積極的に取り入れ、RI・放射線関係技術者の養成訓練を行ってきた。
昔から「百?閧ヘ一見にしかず」のことわざがあるように、体験すること、実物を見たり触れたりすることが知識につながり、技術をもつ自信につながるものである。
本センターで使われる線源は、核分裂生成物のような混合核種線源や旧アイソトープ部が頒布したRIが多く、特に短寿命核種が原研研究炉で製造された。
研修生は、それら非密封RIを使いながら放射性核種の溶解、沈殿、反応等の化学的性質を理解し、β線やγ線測定のための試料調整法、放射能測定法、
安全取扱い方等の技術を学んでいる。
教科の1つとして試料を研究炉の熱中性子で照射して試料中の興味ある元素を分析する実験「放射化分析」が行われている。
この実験は基礎課程やJICA共催の「原子力基礎実験コース」で定常的に、他に、IAEA共催の「核分析技術コース」で重要項目として取上げられている。
基礎課程の場合、放射化分析概論の講義と組み合わせて実習が設定されている。
実習では、(a)中性子で照射した試料を簡単に表面洗浄をしたのち高純度ゲルマニウムで直接γ線スペクトルを測定する非破壊分析と、
(b)試料を溶解して興味ある微量成分を分離したのち同スペクトロメータで分析する破壊分析の2つが行われている。
試料は東京湾にも生息している大アサリ(CaCO3)であり、分析対象元素としてナトリウムと銅を選んでいる。
ナトリウムは環境試料を中性子照射した場合に放射性主成分になる元素である。
銅は微量成分であるが反応断面積が大きいので63Cu(n,γ)64Cu反応、
4.56barn、を利用すれば高感度で検出される。しかし、この核種についてγ線スペクトルの解析を行うには次の問題を解決しておかなくてはいけない。
すなわち、(1)64Cuの分析は、放出するγl線2本のうち、β+崩壊がもたらす陽電子消滅放射線ははるかに高い放射率をもつので、
そのγ線を分析に選ばざるをえない。この消滅放射線は、24Naの高エネルギーγ線が物質との電子対生成によりもたらす陽電子消滅放射線と同一である。
(2)24Naは高エネルギーγ線を出す放射性主成分であるが故に、そのγ線のコンプトン・スペクトルが微量成分のγ線に全て重なり、妨害となる。
(3)両核種の半減期はほぼ同じであるから主成分の24Naの減衰を持つことはできない。このような理由があるので、迅速な銅の分離精製の手段として、
塩酸酸性の試料液に銅担体を加えてから金属亜鉛で還元する銅の沈殿分離を行っている。
過去40年間においてJRR-1、2、3、4の歴代の原研研究炉を利用した当センターの実験実習により大勢の技術者が育った。
私どもの研修コースに多くの方々がご参加さることを希望します。
図1 研修生が分析した大アサリの銅含有(ppm) | 図2 放射化学の実習 |