今号では、原研とタイ王国原子力庁(Office of Atomic Energy for Peace : OAEP)の間で締結されている協定に基づき、 タイに在駐している国際技術協力員の八巻さんから届いた投稿を紹介します。


タイ王国の原子力事情

 地図で、茨城県の輪郭が犬の座った形をしているのと同じ表現になりますが、タイ王国は象の頭です。 北西と西をミャンマーと、北東をラオスと、南東をカンボジヤと、タイ湾に沿って鼻に相当する部分が南に細長く伸びてマレー半島中央でマレーシヤと、それぞれ国境を接しています。 フィリピン、インドネシヤの島国を合わせた東南アジアの国際的な中心地に、タイ王国は位置しています。
 国の面積は約51万平方km(日本の約1.4倍)です。農地面積=21万平方km(日本は5.5平方km)。 人口約6147万人(日本の約半分)、チャオプラヤー河口に位置します首都バンコクは人口565万人で、東京と同じく国民の一割近くが集中しています。
 電力消費量(1998年)は約86BkWh(日本は約800BkWh)です。タイには原子力発電所はありませんので、火力・水力で賄っています。1960年代に原子力発電所計画は有ったのですが、 タイ湾内に30年分くらいの天然ガス資源が発見され、TMI等の負の要因も加わり、更にアジア経済不況等のため、見送りになっているようです。
 タイにはOAEP所有の研究用原子炉1基(Thai Reserch Reactor-1 / Modified1)が有ります。 1962年、アイゼンハワー米大統領の原子力平和利用政策により、設けられたのは、スイミング・プール型・高濃縮ウラン・MTR燃料を用いた熱出力1MWの炉でした。 1977年に、炉心を低濃縮・TRIGA-Mark-3型燃料用に改め、計測・制御系をUp to Dateし、冷却系に自国産の熱交換器を増設して、 定格熱出力2MWにpower upしました。
 一年を通して、2〜3月の暑季に定期検査を実施し、4月から次年1月まで週を単位とする運転を行っています。 月曜日には施設安全点検、火曜日は利用者希望の出力での運転、水・木・金曜日は定出力運転です。 朝7時から開始、8時頃にに定出力に到達、16時に第2直に引継、19時30分頃炉停止作業を行います。 週担当のスーパー・バイザー1名に、一班は運転員2名、技術員2名と保物員1名で構成されます。 火曜日は中性子ビーム・中性子ラジオグラフィーの実験がOAEP職員やチュラロンコン大学教官等によって行われ、残り3日の定出力運転は、医療用RI生産に提供されています。 私も日本で経験したことですが、タイでの運転管理のための苦労話をいろいろと聞かせて貰いました。私などJRR-2が長寿命と誇っていましたが、タイの38年間にも頭が下がる思いです。
 この間に原子炉周辺状況も変わり、特に空港に近い等への条件を考慮し、更に利用要求の高度化への対応も含め、 現在位置より北東へ約60km離れた新サイトに熱出力10MWの研究炉を建設し、稼動したら、現在の炉は止めて、ディコミッションするという国の計画が進められています。 新サイトは、研究用原子炉、RI生産施設及び放射性廃棄物処理施設を3本の柱とする研究センターで、21世紀初頭のタイ原子力技術を発展させる中心地となる事でしょう。 原子炉本体については1997年6月に米国General Atomic社と契約し、 現在設計許可申請書に相当するPSARPreliminary Safety Analysis Report)の検討を進めており、本年秋頃には着工が見込まれています。
 これまで、日本との国際交流で多くのタイの研究者・技術者達が指導を頂いて来ました。 従来の範囲は勿論のこと、上記の新プロジェクトを進める上でも、皆様のご援助・ご指導をお願い致します。


写真はTRR-1/M1の正面を写したものです。
8枚の近代画が上に見られます。左半分には農業国
タイを象徴する田んぼ、果樹園、養鶏所など、右半分
には原子の火を操る若者の姿が描き出されています。
(タイ国際技術協力員   八巻 治恵様より)


皆様の投稿お待ちしております

ご連絡先 : 日本原子力研究開発機構 原子力科学研究所 研究炉加速器管理部 研究炉利用課
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FAX:029-282-6763
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