いつも研究炉ひろばのご愛読有り難うございます。 さて、今号のひろばのコーナーでは、当研究炉の利用者でおられる中西先生と結田先生がそれぞれ猿橋賞、農林水産大臣賞(職員功績者)を受賞されましたのでここにご紹介致します。
東京大学大学院農学生命科学研究科助教授理学博士 中西 友子先生
猿橋賞は、猿橋勝子先生から優れた女性科学者に贈られる国内唯一の賞です。 猿橋勝子先生は、大気や海中に放出された放射性物質が気流や海流に乗ってどのように動くかを追跡調査し、世界中から注目を浴びており、 精力的に活動を続けていらっしゃる地球科学者であり女性科学者です。 そんな第20回の猿橋賞を今年の5月27日、研究炉の利用者であり、本誌第9号でも紹介した中西先生が「植物における水および微量元素の挙動」というタイトルで受賞しました。 中西先生は、生きた植物の情報伝達がどのように行われているか調べるため、「植物中の水の挙動」に着目し、 中性子ラジオグラフィ法を用いて中性子線による植物中の水の可視化という独自の手法を開発しました。 これまで生体内の水については、生体の80%以上を構成するにもかかわらず、正確に知られていませんでした。 中性子は電気的に中性であるため、殆どの原子を通り抜けるが、自分とほぼ同じ大きさの水素原子にぶつかると、吸収されたり散乱されたりする。 そのため水素原子の多い水の部分は中性子線が通過しにくく、水の像を浮かび上がらせることができる。 中西先生は、本誌でも紹介したカーネーションの花や大豆の根の土壌中の断層像の他にヒルガオの花やナタネのサヤの中の組織像などの画像を撮影しました。 これにより水の動きやサヤの中にある種子の成熟過程、土壌中の根の成長過程等、生きたままの組織の形態等もわかりました。 また、植物の水分吸収、乾燥過程を解析できたほか、根近傍(根圏)の土壌水分の変化を解析し、謎の多い根の活動を明らかにしました。 また、中西先生は、アルミニウムやホウ素といった植物中の微量元素を分析し、成果を挙げておられます。 アルミニウムでは共焦点レーザー顕微鏡を用いた高感度の蛍光染色法を世界に先駆けて開発し、細胞内のアルミニウムの立体分析を明らかにしました。 ホウ素では即発ガンマ線分析法により、細胞の分裂期にホウ素量が最も少なくなることを見いだしました。
中西先生からの謝辞:
原研研究炉部の皆様にはいろいろお世話になっております。今回の受賞についても皆様の協力のおかげと思っております。有り難うございました。
農林水産省農業環境技術研究所分析法研究室長農学博士 結田 康一先生
農林水産大臣賞(職員功績者)は、農林水産省の職員を対象に農林水産行政に顕著な功績のあった者、 農林水産行政上特に有益な発明、考案又は改良をした者等に対し、農林水産大臣が表彰を行っているものです。 今回結田先生は、「放射性・安定ヨウ素および臭素の農業生態系における動態解明と環境汚染・過剰・欠乏問題の解明」という研究功績をもって受賞しました。 ヨウ素、臭素、塩素はハロゲン族元素の中でも特に化学的性質が近似しており、化学的・生理的活性が高く、動植物の生存・成長に大きな影響を及ぼします。 結田先生は、土壌、植物、土壌溶液および雨水中のこれらの元素の実用的放射化分析法を確立するとともに、 ヨウ素および臭素をトレーサに利用するアクチバブルトレーサ法(後放射化法)の開発と利用を行いました。 これにより、日本の多くの農耕林地土壌は、高濃度のヨウ素と臭素を天然集積しており、両元素の植物による過剰吸収害を生ずる恐れがあるが、 水田のみは桁違いに低濃度であること、環境条件(水分、温度など)によって土壌中両元素の土壌溶液への溶出率は大きく変化すること等を明らかにし、 またそれらの土壌に生育する作物や作物(牧草)を餌とする動物・人間にも過剰症や欠乏症が生じること等を明らかにしました。 現在、結田先生は、世界各地の土壌・植物系を対象とし、両元素の存在量・分布・動態の法則性をより明確にするとともに、 地球的視野に立つ欠乏、過剰、環境汚染問題の解明に寄与しつつあります。
結田先生からの謝辞:
いつも放射化分析の照射ではお世話になっております。おかげさまでこのような賞を受賞することができました。どうも有り難うございました。
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