すでに前号でお知らせしましたように、JRR-3熱中性子導管(T2ライン)の一部が、Ni単層膜導管から、Ni-Ti多層膜のスーパーミラー導管に交換されました。 従来のNi単層膜導管は、熱中性子のNiに対する全反射現象を利用して中性子を遠方まで導いていましたが、 スーパーミラー導管は中性子の波としての干渉して強め合う性質(ブラッグ散乱)を利用したもので、中性子を効率よく輸送することができる新しい導管です。 今年度スーパーミラー化されたのは、図1に示したT2ラインの太い赤い線に相当する箇所です。 T2-1ビームポートに設置する残留応力解析用中性子回折装置(RESA)のモノクロメーター結晶の直前までスーパーミラー導管に置き換わりましたが、 これよりライン末端のT2-4ポート(高分解能三軸型中性子分光器 TAS-2)までは、従来のNi単層膜導管のままです。 特性測定は、T2-1とT2-4のポートとそのビーム実験装置を使って行われました。 表1は、金箔放射化法から求めたスーパーミラー化後のT2-1とT2-4導管の中性子束の値です。 今回測定したT2-1の値は、以前Ni単層膜導管時に測定した中性子束の値と比べると約1.4倍に増大しており、スーパーミラー化の効果が現れた結果となりました。 図2は、RESAのモノクロ中性子(波長約2Å)の強度を直接測定した結果です。青がNi導管時の、赤がスーパーミラー化後の測定値です。 ピーク強度で約2倍の強度の増加が認められました。図3はTAS-2を使って測定された、スーパーミラー化前後の中性子スペクトルです。 モノクロメーター結晶のブラッグ散乱を利用して測定したためエネルギーの範囲が制限されていますが、全体的に強度が増加していることと、 とりわけ短波長側(高エネルギー側)の中性子の強度が増加がしていることがわかります。 これは、スーパーミラー化の特徴が現れたもので、Ni導管では反射できなかった短い波長の中性子を、スーパーミラー導管を使うことによって、 無駄なく有効に利用することが可能となりました。
(測定データ提供:先端基礎研究センターほか)
図1.JRR-3熱中性導管(T2)のスーパーミラー化した個所(太い赤線)
表1.スーパーミラー化後のT2-4導管の中性子束
ポート | 中性子束(n/cm2・s-1) |
T2-1 | 2.8×108 |
T2-4 | 1.4×108 |
図2. RESAのモノクロ中性子(波長約2A)の強度を直接測定した結果 |
図3. TAS-2を使って測定されたスーパーミラー化前後の中性子スペクトル |