熊本大学工学部   岸川 俊明助教授

 JRR-3Mで即発γ線分析あるいは放射化分析を行っている熊本大学の岸川先生にお話を伺いました。


●先生のご専門は何ですか。

 放射化学が専門です。工学部では「応用放射化学」の授業科目を担当し、実験科目として放射化学に関する実験を分担しています。 併任の大学院自然科学研究科では博士前期課程で「放射化学特論」、博士後期課程で「応用核化学」の授業科目を担当しています。 また、RIを取り扱う学内共同教育研究施設に配置されている関係で、ICRP1991年勧告の法令への取り入れを受けて放射線障害防止に係る学内規則の全面的見直しに携わっています。


●原研の研究炉を利用してどのような研究を行っているのですか。

 初期には中性子誘導核反応で生成した核種の核変換過程(n,γ)、(n,γ)+(IT*)や(IT)の化学的効果を研究していました。 最近は放射性核種の壊変γ線や中性子即発γ線のエネルギーをγ線スペクトロメータによって精密に測定する方法の開発に取り組んでいます。


●研究をしていて最も印象に残っていることは何ですか。

 即発γ線を研究対象にしていた当初、常用のエネルギー校正法ではどんなにエネルギーを外挿しても「直線性」が得られなかったこと。 そこで、いわゆるエネルギー標準と称するデータのオリジナルスペクトルをチェックしたところ偏りのあることが判明したことです。 この偏りの割合をピークインデックスと定義して原子力学会欧文誌に発表しました。


●先生の文献に装置関数(instrument function)という関数がでてきますが、これはどういう関数なのですか。

 前の質問の答えとも関係するのですが、現在知られているほとんどの核種についてのγ線エネルギーの推奨値は1970年代にデファクトスタンダードの 198Au-411keVを基に構築された標準エネルギーチェーンに同定して決められています。 しかしGe検出器付γ線スペクトロメータで測定したγ線のエネルギーを代表する値はいずれもこれより極わずか低い(ピーク位置ではない)のです。 この原因の解明に威力を発揮したのが装置関数です。この関数は、原理的には、正規分布関数にポアッソン分布関数が畳み込まれた関数です。 光電ピーク波形のエネルギーを代表する位置は見かけのピーク位置ではなく正規分布の中心位置であることが解明されました。 (従来の検出器の応答関数とは概念が異なるものです。)この理論の正しさは、超伝導検出器が実用化された時点で証明できます。


●即発γ線分析あるいは放射化分析を行うにあたっての注意点は何ですか。

 現在中性子利用分析のほとんどがライフサイエンス及び環境に関する研究ですが、注意すべき点は、 基本的に分析試料調製−中性子照射−γ線計測の過程で入り込む多くのパラメータの精度をいかに高め、 特に不連続な実験相互の校正(すなわち標準化)をいかに達成するかにあると思います。


●即発γ線分析あるいは放射化分析の今後の課題は何ですか。

 標準化と多重γ線検出法のような新たな手法の開発でしょう。 標準化についてベルギーのDeCorte教授が創始したK0法が 大学開放研のK0-NAAプロジェクトばかりでなく、 中性子即発γ線分析向けにも原研サイドで開発(K0-PGA)されつつあることに注目しています。


●原研の研究炉に対して何か要望とかありますか。

 研研究炉部の皆様には大変お世話になっています。パルス中性子ビームおよびマイクロ中性子ビームが炉内中性子照射利用と相まって重要な機能になると思います。 今後も従来通り中性子利用グループの要望を反映させていただけるようお願いします。  また、この度科学技術庁長官賞(放射線安全管理功労者)を授賞しましたが、セイフティカルチャーに根ざす研究推進が基本だと再認識させられました。ありがとうございました。


−ありがとうございました。

熊本大学工学部   岸川 俊明助教授