神戸大学 工学部   竹中 信幸

 混相流(multiphase flow)とは、固気液の各相が入れ混じった複雑な流れであり、機械、原子力、化学、建設等の工業分野や地球、 大気、海洋等の自然科学の分野で研究が行われている。 機械工学では、蒸気発生器、流動層、気泡塔、熱交換器、スプレー等の混相流の特性を生かした機器設計が行われ、 原子炉、加速器ターゲットのようなエネルギー密度の高い機器を冷却する際にも混相流技術が必要である。 沸騰水型原子炉(BWR)では、通常運転時にも炉心内で沸騰が生じて水と水蒸気が混在して流れる気液二相流が形成されており、 流体に対する気相の体積割合であるボイド率(void fraction)が原子炉の反応度を決定するため、その予測はBWR設計のために極めて重要である。 また加圧水型原子炉(PWR)のように正常運転時には非沸騰の水単相流で炉心が冷却されている機器でも事故時には容易に沸騰が生じ、 水と水蒸気が混在して流れる気液二相流が形成される。 さらに構造物が破損、溶融した場合には、固液二相流、固気液三相流、固気二相流が問題となり、高エネルギー密度の機器の安全性研究には、さらに種々の混相流技術が必要とされる。
 JRR-3の熱中性子ラジオグラフィシステムを利用して混相流研究を行っている。 熱中性子線は工業的によく使用されるアルミニウム、鉄、銅のような金属を透過しやすく、水、油、冷媒等の水素を含んだ液体や特定の元素不透明であり、 金属製機械内部の流体の挙動や液体金属流れの内部を透視するのに適しており、いわば機械のレントゲン検査法として機械内部の流れの可視化に利用している。 また、散乱成分の補正等が必要ではあるが、上記の気液二相流研究において重要なボイド率が中性子線の減衰係数から定量的に測定できるため、 ビーム方向平均の2次元ボイド率分布計測やCT法による3次元ボイド率分布計測を実際の機器や模擬装置で行っており、以下にその例を示す。
 図1は、プレートフィン熱交換器内気液二相流の流れを30駒/秒の動画で可視化した際の1駒の画像を擬似カラーで示す。 プレートフィン熱交換器は斜めに凹凸をつけたステンレス鋼製の薄い板を交互に何枚も重ね、 その隙間を流路として交互に高温と低温の流体を流すことにより高性能な熱交換を行うコンパクト熱交換器であるが、二相流で用いる場合には流路内を均一に流す工夫が必要である。 図の可視化例では、左側を気体が流れており性能が悪くなっていることが解る。この可視化例をもとに熱交換器入口部の形状を変化させて、流れを均一にする試みを行った。
 図2は、原子炉模擬燃料集合体を流れる気液二相流のスペーサ近傍のボイド率分布3次元計測結果例を示す。 試験装置は外径10mmのアルミニウム製円管16本をステンレス鋼製マルセル型スペーサで4×4のバンドルとし、アルミニウム製矩形容器に納めて空気と水を混合して流すもので、 BWRの燃料集合体を模擬している。 試験装置を0.72度おきに回転させて合計250の時間平均透視図を撮影し、CT再校正をすることによりボイド率の3次元分布を計測した例であり、 約1時間の計測時間で、空間分解能0.18mmで水平断面310×310点、高さ方向1018点の約1億点のボイド率計測を行えた。 図ではスペーサの上下流部およびスペーサ内部の水平3断面についてのみ、液相の体積比率を表わす1からボイド率αを引いた値1−αのサーフェスプロット例を示しており、 アニメーションでより多くの断面分布の高さ方向変化を調べることにより、スペーサによる影響を詳細に明らかにすることができた。
 このような可視化や計測は、光による可視化やプローブを用いた従来の計測法では不可能であり、 X線でも金属部分の多いプレート熱交換器や模擬燃料集合体のスペーサ内部における可視化・計測は困難であった。 現在種々の金属製の実機に応用して、機器設計への利用を検討している。


図1.
プレートフィン熱交換器内気液二相流の動的可視化例の1駒 
図2.
 原子炉4×4模擬燃料集合体中の気液二相流の3次元ボイド率計測例