研究炉部 研究炉技術管理課   熊田 博明

 JRR-4の中性子ビーム設備を使って実施されているホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy : BNCT)は、 腫瘍細胞に選択的に集まるボロン化合物を患者に投与し、患部に中性子ビームを照射することにより、 10B(n,α)7Li反応を起こし腫瘍細胞のみを破壊する治療法である。これまで日本では、熱中性子ビームを使ったBNCTが実施されてきたが、 近年欧米や京大KURにおいてはBNCTに熱外中性子ビームを用いて治療を行う研究、臨床照射が開始されている。BNCTに熱外中性子ビームを用いることにより、 脳内のより深部まで熱中性子を与えることが可能となり、深部にある悪性腫瘍の治療に効果があると期待されている。 JRR-4においても1999年10月から熱中性子ビームによるBNCTが実施されており、熱外中性子ビームを用いたBNCTの臨床研究を開始するための臨床及び物理データを集積しているところである。
 これまで実施されてきた熱中性子ビームによるBNCTでは、脳表面近傍に配置した金線及びTLDによって、熱中性子束、γ線量をそれぞれ実測し、 この測定結果を基に患部周辺の吸収線量を評価している。しかし、熱中性子が脳内深部まで達する熱外中性子ビームBNCTでは、 (1) 従来の実測手法では検出器を脳内に配置できないため、患部周辺の吸収線量を正確に把握することができない、 (2)速中性子の吸収線量への寄与も無視できなくなる、などの課題がある。
 これを踏まえ原研では、従来の実測による評価方法に代わり、患部周辺の吸収線量を数値シミュレーションによって評価を行うBNCT線量評価システム(JCDS)の開発を行っている。 JCDSは患者の医療画像から頭部モデルを作成し、このモデルを基に頭部内の線量分布をモンテカルロ・コードMCNPで計算するための入力ファイルを自動作成する。 さらに、この入力ファイルを使ってMCNPで計算した結果を再びJCDSに読み込み、頭部モデル上に線量分布を重ねて表示を行うなどにより、 BNCTの線量評価に必要な情報を出力するものである。Fig.1にJCDSによる線量評価の流れを示す。JCDSは、(1)医療画像であるCTとMRIの両データを使用することによって、 正確な患者頭部の3次元モデルを簡便に作成することができる、(2)開頭術を伴ったBNCTにも対応することができる、(3)患者セッティングシステムと連携し、 患者を迅速かつ正確にセッティングすることができる、などの特徴を有している。
 円筒水ファントムによる実験値や現在熱中性子ビームを使って実施されているBNCTから得られた実測データとの比較によって、JCDSの計算性能を検証した。 これらの検証結果からJCDSによる一連の処理によってBNCTの線量評価を実行できることを確認した。
 JCDSをBNCTに適用することによって、患部周辺の詳細な線量分布評価に基づいた治療を実施することが可能となった。 今後も研究開発を行い、JCDSをより精度の高い線量計算が効率的に実行できるシステムに高度化する。


Fig1. JCDSによる線量評価の流れ