【ネプツニウム化合物の中性子散乱実験】

先端基礎研究センター ウラン中性子散乱研究グループ   目時 直人 ・ 金子 耕士

 核燃料関連物質として知られているアクチノイド元素は、その5f電子が磁性や超伝導を示すために、固体物理学の観点から興味が持たれています。 最近この分野はめざましい発展を遂げています。例えば、プルトニウム化合物PuCoGa5が、 転移温度18.5Kの高温超伝導体であることが米国ロスアラモス研究所で発見されました。このような大発見は、アクチノイド科学が、 未開拓の分野が無尽蔵に残された学問領域であることを端的に示しています。
 最近、PuCoGa5と同じ結晶構造を持つNpTGa5 (T = Fe, Co, Ni)の磁気構造を明らかにしました。 Npは天然には産出しない放射性元素です。α崩壊に伴ってα線を放出するため、完全に密封して取り扱われます。当然、製薬会社や金属材料店からは購入できません。 使用済み燃料を再処理する過程で得られたNpO2を、アマルガム法によって還元してNp金属を作り、 他の金属材料と混ぜてフラックス法を用いて単結晶試料が育成されます。これらの試料育成方法は東北大学金属材料研究所の塩川教授の研究グループによって、開発されました。

  NpCoGa5単結晶の写真を図1に示します。

図1.NpCoGa5単結晶

 中性子散乱実験は、JRR-3の三軸型分光器TAS-1、TAS-2、LTASを用いて行いました。 磁気構造は通常の非偏極散乱実験と、スピン偏極実験10Tまでの高磁場中の実験を駆使して決定しました。Np化合物の中性子散乱実験は国内では今回初めて行われました。 最も単純な磁気構造のNpCoGa5は、正方晶のc面内で磁気モーメントが平行にそろい、c軸にそって交互に反対方向を向く反強磁性構造を持ちます。 遷移金属の3d電子数が一つ少ないNpFeGa5では、全く逆に、c面内に倒れた磁気モーメントが交互に反対方向を向き、垂直方向には磁気モーメントの向きがそろいます。 そしてFeが小さな磁気モーメントを持ちます。つまりFeの3d電子がNpの5f電子と混成して磁性と電気伝導に重要な役割をしている事を示しています。 さらにNpNiGa5では、Npの磁気モーメントの方向がそろった単純な強磁性と、その方向が傾いた構造が出現します。Co及びNiに磁気モーメントが存在しない事は、 3d電子数の増加とともに、Npの5f電子との混成が弱まるためと理解されます。我々の研究によって磁気構造は決定されましたが、 3d電子数の変化に伴って多彩な磁性が出現するそのメカニズムは解明されていません。従来まで知られている磁気相互作用と、 5f電子の持つ軌道の自由度が重要な役割をしている可能性が、理論的に指摘されています。
 この1:1:5の組成比を持つ物質群の特徴は、同じ結晶構造を持ち、電子状態の異なる一連の単結晶試料が育成できることです。
 f電子の数と性格が異なるCe-‘115’(4f 1、 4f電子が一つ)、 U-‘115’(5f 3), Np-‘115’(5f 4)、Pu-‘115’(5f 5)の系統的な研究により、 多彩な磁性や超伝導の本質が明らかにされていきます。 Ce化合物のCeCoIn5, CeRhIn5, CeIrIn5, そしてPu化合物のPuCoGa5及びPuRhGa5は超伝導を示しますが、U-‘115’及びNp-‘115’は超伝導を示しません。 U-‘115’の5f電子はその遍歴性が強すぎて超伝導に欠かせない磁性や軌道の自由度が死んでしまい、 Np-‘115’では磁性が安定すぎて超伝導が起きないのではないかと考えられています。

JRR-3冷中性子散乱実験デバイス開発装置(LTAS)