【k0法に基づく中性子即発γ線分析法の研究】

中性子利用研究センター 中性子産業利用促進グループ   松江 秀明

 中性子即発γ線分析(PGA)は,試料を中性子照射した際に放出される即発γ線を測定することにより非破壊で多元素同時分析する分析法であり、 他の方法では分析が困難なH,B,Si などの軽元素をはじめ多くの元素に有効である。本法は蛍光X線分析(XRF)に類似しているが、透過力の大きい中性子を照射し、 高エネルギーの即発γ線を分析に利用するため、試料のマトリックス効果等の影響が少なく、また誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)等の機器分析法に比較すると、 非破壊分析が可能であり化学処理時の汚染等の心配もなく、正確な定量分析が可能である。我々は、これらのPGAの特性を有効に利用するため、 k0法(中性子放射化分析法で数個の中性子モニターの測定のみで多元素定量を可能とする定量法)をPGAに適用するための研究開発を行っている。 本文では、JRR-3の冷及び熱中性子ポートの即発γ線分析装置を利用したk0-PGA研究の成果について簡単に紹介する。 本法で用いるk0係数は図1の定義式で示すように、標準元素と標的元素の質量比が既知でかつ均一に含まれる試料の測定によって求められ、 核データからも計算することができる汎用的な複合核定数である。 定量には図中の定量式を用いる。原研では、Ge半導体検出器の正確な検出効率を求め1)、27元素のClに対するk0 係数を測定し公表している2)。k0係数は汎用的な定数であるため、 他の中性子ビーム実験施設で測定したk0係数を直接比較し正確さを評価することができる。 図2は、原研の熱中性子ビームポートで測定したk0係数に対し、原研の冷中性子、 ハンガリー同位体及び表面化学研究所(IKI)の熱中性子ビームにより測定されたk0係数の値を比較したもので、 Cd と Sm を除くほとんどの元素が10% 以内で一致している3)
 CdとSmは、熱中性子エネルギー領域に大きな共鳴吸収ピークを持つ典型的な非1/v 元素であり使用する中性子ビームの中性子エネルギー分布の影響を受けることが知られている。 我々は、更なる本法の汎用化のためk0係数の中性子スペクトル依存性の補正法を検討している4)。 k0-PGAでは、 元素の絶対濃度を直接求めることができないが、その解決策として、標準添加法により試料中の一元素を定量し、その値から各元素の絶対濃度を求める方法を考案し、 様々な標準物質の分析に適用した5)。図3に分析値と各標準物質の認証値あるいは参考値と比較した結果を示す。 定量値は認証値とほぼ10%以内で一致した3)。他施設とのk0係数との比較、標準物質の分析結果等を総合して、 k0-PGAにより10% 以下の正確さで多元素定量が可能である評価をしている。 今後、k0-PGAの非破壊多元素同時分析である特長を活かし、 正確な分析値が必要となる標準物質の分析への適用など応用面に重点を置いて研究を進めていく予定である。

文  献
(1) S.Raman,C.Yonezawa,H.Matsue,H.Iimura,N.Sinohara,Nucl.Instr.Meth.Phys.Res., A454 (2000) 389.
(2) H.Matsue,C.Yonezawa,J.Radioanal. Nucl.Chem.,245(2000)189.
(3) H.Matsue,C.Yonezawa,J.Radioanal. Nucl.Chem.,257(2003)565.
(4) H.Matsue,C.Yonezawa,J.Radioanal. Nucl. Chem., 255 (2003) 125.
(5) 松江秀明、米沢仲四郎、分析化学、53 (2004) 749.

図1.k0-PGAの原理

図2.異なる中性子ビームを用いて測定された即発γ線k0係数の比較 図3.k0-PGAによる標準物質の分析結果