●名古屋大学理学部 田中 剛
環境試料の分析に放射化分析を用いる利点は多いが、なかでも同時に多くの元素が定量できる、試料に化学処理を施さなくても(非破壊)分析できる、 というのは大きな利点である。 工業技術院地質調査所は北関東地域の河川堆積物(細粒の砂)4000個中の53元素を分析し、元素の地表分布図(地球化学図)を作った。 30元素の因子分析から、カルシウム、鉄、ランタン、ウランなど25元素は地表地質の自然営力により、 銅、鉛、亜鉛、リンなど5元素は人為的な営力により元素の分散が生じたことがわかった。 図に示す阿武隈山中の高濃度のセリウム(ハイテク素材元素)も多元素因子解析の結果、自然営力の所作と判断された。 この研究にはICP発光分光分析も用いられたが、地質試料の中には酸で容易に分解しない鉱物もあり、非破壊分析ができる放射化分析への信頼度はより高いものであった。 放射化分析は環境評価のみならず、未知資源の発見にも威力を発揮する。 愛知県津具地方は徳川の昔から金の産出で知られているが今回、津具村を中心として採取した河川堆積物90試料の金、ヒ素、アンチモンなど30元素を放射化分析により分析した。 その結果、従来知られていた場所(鉱山跡)以外にも金の濃度が異常に高いところが2ヶ所見いだされた。 このように放射化分析はここ10数年様々なサポート体制が整い、筆者のように放射化学の素人にも容易に使えるようになった。(一般利用)
北関東地域のセリウムの地球化学図(地質調査所、1991)
愛知県津具村における金の分布
(戸上 薫・名古屋大学 1994年度卒業研究)