■炉内構造材の照射誘起応力腐食割れ■


材料研究部材料応用工学研究室   塚田 隆、三輪 幸夫

 原子炉の圧力容器鋼が、中性子照射により徐々に脆化することはよく知られているが、 軽水炉等の主要な炉構造体であるステンレス鋼は長期間の中性子照射を受けると高温水中で応力腐食割れ感受性を示すようになる。 この現象は「照射誘起応力腐食割れ(IASCC)」と呼ばれ、軽水炉の高経年化に伴う材料信頼性評価との関連をはじめ水冷却を行う原子炉システムに共通する研究課題である。 IASCCの発生、割れ挙動の支配因子を調べるため、合金化学組成を調整したステンレス鋼をJRR-3Mで、 照射量1x1025n/m2(E>1MeV)を目標に温度(400K〜700K)をパラメータとして照射した。

中性子照射により発生した高温水中応力腐食割れ
(溶存酸素飽和水中の低歪み速度引張試験結果)

 上図は、高純度のオーステナイト系ステンレス鋼に硫黄を添加(0.03%)した合金試料を照射後に高温水中(573k、9.3MPa、溶存酸素飽和)で応力腐食割れ試験した結果であり、 照射材では結晶粒界に割れが発生し、非照射材に比べ伸びが著しく低下した。IASCC発生の要因としては、照射により誘起される合金中の元素偏析が重視されている。

合金の結晶粒界近傍に生じた照射誘起偏析

 JRR-3Mで照射した試料について、ホットラボに設置した高分解能透過型電子顕微鏡(FE-TEM)による元素分析を行い、 上図のような合金粒界の近傍数nmにおける局所的な照射誘起偏析を観察した。 原子炉照射及び照射後試験の実施には多大の労力と時間を要するが、研究炉及びホットラボの方々の協力に支えられてこのようなIASCCの研究を進めている。