皆さん、放射化という言葉をご存知でしょうか。 辞書によれば、放射化とは「中性子や他の放射線によって、放射能を引き起こすこと」とあります。 今他の放射線を無視して中性子が物質に衝突する場合を想定して見ましょう。 ある物質に中性子が衝突すると、物質と中性子の間に反応が起こります。 この反応は様々ですが、特に物質が中性子を取り込み、γ線やβ線といった放射線を放出する現象、これが中性子による放射化です。 この現象はほとんどの物質で起こります。
 さて、第3号の「えとせとら」で述べたように、中性子密度の高い研究炉の炉心に物質を挿入すると、この放射化の現象が容易に起こります。 放射性物質はその元素特有の放射線を放出するため、あらかじめ元素と放射線の関係を調べておけば、放射線を計測することにより何の元素か容易に解るのです。 さらに放出される放射線の数から元素の数が解ります。特有の放射線というのは、種類は勿論放射線のエネルギーが元素によって決まっているという事です。 測定したい物質に放射線を当てて、人工的に放射性物質を作り、放出される放射線を測定することによって、分析定量するのです。これが、中性子を用いた放射化分析の原理です。 例えば、放射化された物質から1.17324Mevのγ線が10個カウントできたとします。 1.17324Mevのγ線を放出する元素が60Coであれば、物質中には60Co原子が10個含まれているということになります。 実際には、中性子と元素の反応する確率が中性子エネルギーによって違うことや、測定感度などの理由でこんなに簡単にはいきませんが。
 このように、放射化分析は原子数単位で定量出来るため、分析感度の非常に高い分析法です。 また、試料を壊さずに、多くの元素を同時に測定できるという特徴を持っています。 これらの特徴を生かして、原研の研究炉でも、大気粉塵、鉱物、河川水残渣、土壌、隕石、植物葉、血液乾固物、半導体、樹脂等多くの種類の放射化分析が行われています。

粒子照射によって起こる核変化過程と放出放射線及び分析法の関係