北海道大学 アイソトープ総合センター   大西 俊之教授

 JRR-3Mの放射化分析用照射設備(PN-3)でホタテ貝を照射し、カドミウム等の含有微量金属元素を測定している北海道大学アイソトープ総合センターの大西教授にお話を伺いました。


大西先生のご専門はなんですか。

 生物、化学、医学、RI等いろいろな分野に関わってきましたが、メインの研究分野は生物化学といったところですかね。 今は、アイソトープ総合センターで働いていますので、ラジオアイソトープ(RI)に関した仕事がほとんどですが。


アイソトープ総合センターはどんなことを行っているところなんですか。

 センター内にある実験室や測定室を共同利用として提供し、アイソトープの教育・研究や放射線を用いた病機の解明等に資しています。 また、アイソトープ利用者や一般公衆のアイソトープによる放射線障害防止を目的とした放射線管理、そして放射線物理学、放射線化学、放射線生物学、 放射線医学等の基礎的な知識やアイソトープの取扱い技術の習慣を目指した教育訓練、アイソトープ利用の研究、アイソトープ安全管理法の開発、 動物体への放射線被ばくの影響研究等を行っています。


原研の研究炉を利用してどんな研究をしているのですか。

 北海道の代表的海産物であるホタテ貝の部位別臓器内の微量金属元素(Cd等)の測定を放射化分析法と原子吸光法を用いて行いました。 北海道では、ホタテ貝の加工浅さとして廃棄されるウロ(中腸腺)によるカドミウム汚染が環境面から問題になっています。 これに端を発してホタテ貝のカドミウム濃縮機構を解明したいと思いました。ホタテ貝以外に動物プランクトン、植物プランクトン、海水についてもカドミウム濃度を測定しました。


結果はいかがでしたか。

 海水のカドミウム濃度に対して、植物プランクトン、動物プランクトン、ホタテ貝と濃縮係数が1×103、2×103、 1〜9×104と増加し、特にホタテ貝の中腸腺や腎臓に至っては106、 107にも増加していることがわかりました。このことから餌となるプランクトンからカドミウム濃縮が進んでいることがわかりました。


ということは、それだけ海水にカドミウムが含まれており、汚染されているということですか。

 いえいえ、そういうことではありません。海水自体のカドミウム含有率が上昇しているということではなく、もともと海水にはわずかですがカドミウムが含まれており、 プランクトンがその海水中のカドミウムを取り込み、それを餌としているホタテ貝がさらにカドミウムを濃縮しているということです。 その中でも特に中腸腺や腎臓は濃縮が大きいということです。したがって、ホタテ貝を加工した時にウロを廃棄するとカドミウム汚染が起こるというわけです。 しかし、われわれが食しているホタテ貝の貝柱についてはなんら心配することはありません。どうぞ北海道にいらしておいしく召し上がって下さい。


放射化分析法と原子吸光法で測定されたということですが、両分析法を比較した結果はいかがですか。

 貝柱等の低濃度部位の測定は放射化分析法では困難ですが、腎臓や中腸腺のような高濃度部位では乾式灰化−放射化分析法で測定可能です。 試料の前処理が容易で不純物の混入が少なく、他元素を同時に測定できるのでサンプル数が少なくて済む(手間がかからない)等、 原子吸光法よりも分析に要する労力が大幅に低減できるメリットを考えると、放射化分析法の方がむしろ有利です。もちろん、精度的にも原子吸光法に劣っていません。 一般的には、放射化分析にしろ原子吸光法にしろまた他の分析法にしろそれぞれに特徴があり、分析試料等によって使い分けることになると思いますが。


原研の研究炉に対して何かご要望等ありますか。

 利用上は特に問題ありません。満足しています。 ただ、これは当センターの利用の活性化にも結びつくことなのですが、原子炉で出来ることを原子力関係以外の研究者にも情報として提供することだと思います。 私が紹介した原子力以外の研究者の中に、原子炉での放射化を利用して、天然物合成化学の研究や肝臓等の銅代謝測定を行って研究成果を挙げている人がいます。 生物や環境といった原子力に無関係な研究者の中には、原子炉に物を入れる(照射する)と、その物が放射化する(ラジオアイソトープになる)ことさえ知らない人がいます。 そういう人たちに、放射化した後放出されるγ線を測定すればその物が何(元素)でありそれがどのくらい(量)あるかわかること(放射化分析)や、 放射化した物を指標(トレーサー)として用いることができること等を情報として与えてやれば、研究炉の利用者はもっと増えると思います。


−ありがとうございました。

北海道大学 アイソトープ総合センター   大西 俊之教授