静岡大学理学部   矢永 誠人助教授

 主にJRR-3の放射化分析用照射設備(PN-3)でマウスの臓器や組織を照射して亜鉛などの微量元素を測定している静岡大学理学部の矢永誠人先生にお話を伺いました。


●先生のご専門は何ですか。

 放射化学が専門ですが、最近は、生物無機化学的な仕事を主に手がけております。 理学部では「同位体化学」の講義を、大学院理工学研究科では「同位体数値解析特論」を担当しております。 また、所属している理学部附属放射化学研究施設では、放射線管理も担当しています。 現在は理学部の放射線取扱主任者に選任され、そちらの仕事も行っております。


●原研の研究炉を利用してどのような研究を行っているのですか。

 中性子放射化分析法により、亜鉛欠乏状態にあるマウスの様々な臓器の中の亜鉛のみではなく、その他の生体微量金属の分析も同時に行い、 亜鉛欠乏の状態と種々の金属の濃度、含有量との関係を調べています。


●亜鉛の摂取が不足すると生体にどのような影響がありますか。

 亜鉛の不足の度合いや、亜鉛欠乏の時期によりますが、味覚や嗅覚がおかしくなる、成長障害が起こる、脱毛症状が出る、免疫不全になる、などの影響が現れます。


●なぜそのようなことが起きるのでしょうか。

 亜鉛という金属は、生体内の様々な酵素タンパク質の中心金属となっております。 酵素とは、ご存じのとおり、生体内の様々な化学反応、すなわち、生きていくために必要な一つ一つの反応の触媒となっているものです。 亜鉛が不足すると、多くの反応を起こすことができなくなるために、このようなことが起きるのです。


●生体微量元素とありましたがその他にどんなものがありますか。

 生体微量元素と呼ばれている元素としては、鉄、亜鉛、銅、マンガン、コバルト、ニッケル、セレン、ヨウ素などがあります。 生体内における亜鉛の含有量は鉄に次ぐものですが、亜鉛の機能の多様性から考えますと、最も重要な金属と言えるでしょう。 また、最近では、セレンが注目視されるようになり、セレンに関する研究も盛んに行われるようになってきております。


●放射化分析を行う上の注意点は何ですか。

 取り扱っております試料が生体試料ですので、動物の個体差の問題を避けることができません。 そのため、同種の試料についても数多くの分析を行っております。その分析を行う際にも、例えば、照射カプセル内における中性子束分布を考慮するなど、 分析の精度を低下させないことを心がけております。


●先生の研究の最終的な目標をお聞かせ下さい。

 現在は、亜鉛欠乏マウスの臓器の分析および細胞内、特に肝細胞内の分析を中心に行っています。 今後は、さらにミクロな分析を行い、亜鉛欠乏時の生体内における亜鉛タンパク質の変化を金属をプローブとして調べ、 亜鉛欠乏の症状が現れる過程の解明および亜鉛欠乏状態からの回復の過程を解明することです。


●原研の研究炉に対して何か要望等ありますか。

 いつも利用課の方々には、いろいろなお願いも聞き入れていただき、大変お世話になっております。 今後もこれまでどおり、実験の内容に応じた利用者の希望を取り入れて、さらに利用しやすく、各実験グループがよりよい成果を上げられるように、ご協力頂けますことをお願いいたします。


−ありがとうございました。

静岡大学理学部   矢永 誠人助教授